人間:はびこることに今のところ成功している物質の一存在形態に過ぎない?

高知工科大学で新入生に対して環境について講義をするとき、いつも最初に問いかけたのが見出しの言葉です。「個人的な見解だけれど、宇宙の中に地球が誕生してから現在までに何が起こったかについて現在分かっていることを総合すると、次のように考えざるを得ません:
 ウイルスも、すべての生物も、人間も、
 「はびこることに今のところ成功している物質の一存在形態に過ぎない」
 というしかない。
全知全能の神が天地や生き物や人間を創ったのであれば、それは奇跡でも不思議でもない。
 「はびこることに今のところ成功している物質の一存在形態」であるにもかかわらず、このような社会を創り、地球を上空から観ることができ、さらに、「この自分を自分だ」と思いながら今、ここに生きている自分がいる。だから奇跡なのだ」、と。


だけど、人間は「健康に、幸福にはびこっているだろうか?持続可能なはびこりかたをしているだろうか?つまり、well-beingの持続可能性」、これを考えるのが「環境について学ぶこと、考えること。」だと。

3つの「Think globally, Act locally」?

「Think globally」は「地球環境問題を考えた上で、」という共通理解があると思います。しかし、「Act locally」は一筋縄ではいかない、と考えています。私は、さらに多様な意味を与えて学生に考えてもらいました。次のような問答だったと思いますが、多少バージョンアップして書いてみます。

中根:「Act locally」とはどういう意味ですか?

学生A:「身近なところで、自分に出来ることをする。」

中根:それは市民としてやるべきことという意味では間違いではないけれど、学生なら大志を抱いて欲しいと思います。「GloballyにAct locally」という「Act locally」はいかがですか?「地球規模で考えて、世界で最も重要な、または効果的な場所で行動する」ということです。

学生B:「場所」はどうやって決めるのですか?

中根:それは君たち一人一人です。「効果的な場所」は「Think globally」によってある程度客観的に候補を絞れると思いますが、「重要な」は一人一人の価値観で違ってくると思います。日本の企業もグローバルに活動していますから、就職したら「「GloballyにAct locally」が仕事になるかも。その時に、学生時代の「Think globally」が役に立つと思います。

中根:「locally」を皆さんの勉強している専門分野、社会に出てからの仕事の分野と考えてみてはどうでしょうか?それも考えると「3つの『Think globally, Act locally』」があると考えられます。

学生C:地球環境の持続可能性、SDGsを考えながら、専門分野に生かす、専門分野の将来のあり方を考える。

学生D:企業や仕事と地球環境の持続可能性やSDGsとWin-Winの関係になるように考え、実現しようとActする。

3つの「Think globally, Act locally」を統合してActする

中根:素晴らしい!「GloballyにAct locally」や「専門分野や企業などでのAct locally」の考え方も取り入れて、もう一度「身近なところ」、「地域」に戻って「身近なところで、自分に出来ることをする。」を深めてみませんか?

学生A:「身近なところ」と「自分に出来ること」を深めればいいんだ。「地球とつながっている地域」を考える。「自分一人でできる」のではなく、「大学や企業や地域のみんなと一緒にやる」ということか。

学生E:「大学」というのも、サークルやボランティアも大事だけれど、授業や研究室の研究で勉強したことを実際に生かしてみる、というのも入るね。専門分野と社会の関係がそうなると、未来が明るくなりそうな気がします。

中根:市町村や県、国の機関(地方事務所)なども、地域のSDGs、や温暖化対策などの取り組みを進めているので、連携するといいと思います。また、国の競争的研究資金や企業などのプロジェクトで、地域の活性化とSDGsや温暖化対策などをWin-Winで進めるための研究をしているので、そのようなプロジェクトに参加する道もあります。

中根:私はこれまで、「3つの『Think globally, Act loccally」と言ってきて、3番目を強調することが多かったのです。でも、今の皆さんとの対話のような自問自答を行ってきて、「3つの『Think globally, Act locally」を統合してActする時代になっていると強く感じます。

「Think globally, Act locally」をウェルビーイングにつなげる

中根:皆さんが、それぞれの「やりたいこと」、「やりたい場」で「それぞれの事情も考え」、まさに持続可能なやり方でActするのが良いと思います。これまでの日本では、「寝食を忘れてやる」、「不眠不休で頑張る」ことが美徳とされていましたが、それではどこかにしわ寄せが行きます。「寝」と「食」は大事にして下さい。決して取り残されるべきではない一人一人の「ワークライフバランス」、いや、「ライフワークバランス」をしっかり実現しながら「Think globally, Act locally」を行う。それが地域や日本や国際社会の発展につながる、ひいては「人間が幸福で持続的にはびこることが出来るようになる」。これが最近強調されている「ウェルビーイング」ではないでしょうか?

「3つの”act locally”と「超領域」」(環境共生Vol 27 巻頭言)からの抜粋

日本環境共生学会の学会誌『環境共生』がJ-Stageで全文公開されているのはVol 37からですが、Vol 27(2015.9.25)の巻頭言に、「3つの”act locally”と「超領域」」(中根英昭)が掲載されています。その「3つの”act locally”」に関する部分を以下に抜粋します。

“Think globally, act locally” は環境に携わる全ての人々を励ましてきた標語である。実際、地球温暖化(気候変動)、資源循環、生物多様性と生態系等との関係を認識しつつ行われる「持続可能な地域」のための様々な主体による活動こそ本来の意味の“act locally” であろう。しかし、この言葉は、学生によって、「身近なことですぐにできること」、「私にもすぐできること」を行うことと解釈されることがある。これから4 年間、あるいは6 年間勉強して社会に出て活躍する、あるいはさらに研究を続ける学生が、“act locally” をこのような「全ての人にやって欲しい最低限のこと」として理解しているのでは、とても“Think globally” が出来ているとは言えない。
そこで、2 つの“act locally” を追加して、「3 つの“act locally”」に分けて考えてもらうことにした。
(1) 持続可能な地域のために行動せよ、
(2) 世界で最も効果的なところで行動せよ(言わば、“act globally locally”)、
(3) 自分の専門、仕事という「local なところで」持続可能な社会のために行動せよ、

である。そして、「まず、(3)を実行すること、(2)の準備をすること、その上で(1)について深く考えることを学生の間にやって欲しい」と訴えている。
そして、次のような多様な「私の“act locally”」を視野に入れて、専門の勉強に取り組んでほしいと考えている。
企業で「環境/持続可能な社会に良い製品やサービス」を開発する。
環境コンサルタンティングを行う。
銀行等で環境にやさしい融資に携わる。
企業や事業所内の環境改善の取り組みやボランティアを行う。
国連機関、政府や自治体で環境に取り組む。
環境NGO、NPO などで仕事をする。
研究者や大学の教員として環境研究に取り組む。 教員として環境教育を行う。
市民として身近な環境の改善や環境に良い生
活を心がける。
つまり、「狭い意味の環境保全」という専門や仕事だけでなく、全ての「私のやりたいこと」を「持続可能な地球、国、地域、社会と共にある」ようにすること、そのような広い意味の環境への貢献は立派な“act locally” だということである。